藤井健仁 彫刻総覧 弐 彫刻鉄面皮 + NEW PERSONIFCATION

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 向暑の候、皆様におかれましては益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
この度、ストライプハウスギャラリーでは、8月9日から24日まで、
藤井健仁 個展「鉄面皮Extended」を開催いたします。
本展は2005年、藤井が第八回岡本太郎記念現代芸術大賞にて準大賞を獲得しました「彫刻刑 鉄面皮 プラス」の続編となる展示となります。

藤井健仁は現在、鉄を鍛造するといった方法論を共有しながらも、全く異なる、対極的ともいえる方向性を持つ「彫刻刑 鉄面皮」と「NewPersonification」という二種の系統を並行させて制作し、鉄と人との因果について、ストイックな一形式による極論を避けながら、その複数の系統により矛盾を孕みつつ多角的に奥行きのある返答を試みる作家です。

「鉄面皮Extended」(「彫刻刑 鉄面皮プラス」続編)について
 
鉄は最初に鋭利な凶器となることで争いを重大化させ、それに伴い現代にまで至る、権力、富、暴力による社会の長大な階層化をも後押ししました。それはイノセントな素材を人の悪意や欲望によって歪曲、加工したということではなく、鉄に出会い、導かれて人が自らの過剰な悪意を自覚した結果とも考えられます。
この「鉄面皮」という制作は、近現代という、鉄が生み出した状況によってアイデンティティーを獲得、或いは維持している人物達を「鉄」によって立ち現された「人間」であるとして、その容貌を一枚の鉄板の打ち出しによってトレースする作業です。実際に人物の風貌が形成されていく過程と同様に、内面や精神性によって形成される部分は 裏側(内側)から、外的要因及び社会性によって形成される部分は表側(外側)から叩いて造形し、内と外が拮抗する境目である顔の表面(一枚の鉄板)に個の存在を再現して行く事でその生の追体験を試み、対象存在への善悪を超えた肯定感さえ抱きつつ、逆に「鉄」にあたえられたアイデンティティーを相殺し、「等身大の生(の彫刻)」に還元しようとするものです。
顕彰銅像彫刻や風刺的な似顔絵といったものと類するかにも見える制作ですが、そうした既成の、大衆的ジャンルを異化やアイロニーの為に編集、流用することなくむしろその本質に忠実に取り組み、対象を直角に凝視し、先入観を無化する程の描写と、鉄との格闘から生み出される強靱なディティールによって本来それら既成のジャンルに備わったポテンシャルを増幅しようとします。

昨今、脈絡の無い人物、事件を組み合わせ、同時に伝達する事により、一方の人物や事件の意味を相殺、無化させようとする意図的な情報操作の存在が囁かれています。脈絡の無い人物達を組み合わせ同時に展示する本展において、これと同じ事を藤井は彫刻によって行っているのかも知れません。けれども彫刻と云うスローなメディアに置き換えられる事によりその結果は逆転します。それぞれの存在は併置によって相殺、無化に導かれるどこか意外な相関さえ生み出し、むしろ隠されてきた個の有り様までも具体化させ、私たちと変わらぬ生身の人間として立ち顕われようとします。いわばこの制作は情報操作の只中にあって諦観せず、それを乗り越えて対象を凝視し続けられる意識の耐性を獲得しようとする行為であるとも言えます。

前作「彫刻刑 鉄面皮プラス」では麻原彰晃、宅間守、ビンラディン、ブッシュら犯罪、暴力、権力等、直接的な負のイメージを付加された人物達を主に採り上げ、彼等の相貌と鉄とが強烈に反応し合う状況を現出させました。そして本展「鉄面皮Extended」ではあえてタイトルから彫刻刑という冠を外し、細木数子、アンネ フランク、安倍元首相夫人、パブロ ピカソら、占い師、平和のシンボル、そして芸術家等、前作とは対照的な、負のイメージでは推し量れない、鉄とは直接関わりが薄いともとれる人物達も題材にしています。だが彼らも同じ「鉄が造った現代」の人間に変わりは無く、タブロイド誌やお昼のワイドショーの如き場所から、余りに一過性の性格を持つが故に彫刻のモチーフとしては適さないともされる有名人達の相貌を用いて、現代を生きる人間の個に遍在するものを撃ち抜こうとする作家の姿勢にも全く変化は見当たりません。こうした本展にて、藤井の鉄は如何なる事を示すのかを是非とも目撃いただきたく存じます。

ストライプハウスギャラリー

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